身をかへて ひとり帰(かへ)れる 山里に聞きしに似たる 松風ぞ吹く
■現代語訳
<逢坂の関>「尼姿になり、お父様と別れて帰ってきたこの山里にも、 明石の浦と同じ松風が吹くのね」(明石の尼君)
■鑑賞
女君たちの別邸・二条の東院が落成して、源氏の殿は明石の君と姫さまをお迎えになろうとします。 しかし明石の君は、身分の違いから入京をためらい、母の尼君が伝領した嵯峨大堰(さがおおい)の山荘にお住まいになります。紫の上に気兼ねする源氏の殿はすぐにはお訪ね下さらず、故郷の風景に似通う大堰川の松風に、明石の君は秋の愁いを深めます。嵯峨野の御堂のご用事にかこつけて、ようやく源氏の殿は大堰の山荘を訪ね、姫さまとの初対面を果たされました。 おんとし三つの姫さまは、たいそうかわいらしく成長なさっています。 「どうしたものか、母の身分が低いままでは、この姫も日陰者で終わってしまう・・」 帰邸した源氏の殿は、紫の上に、姫君を二条院に引き取り、養女として育ててみないかとご相談なさいます。源氏の殿の虫のよいご提案に、多少の不満やしっとをのぞかせながらも、元より子供好きな紫の上は、かわいいさかりであろう姫君を養育したいとお答えになるのでした。