【第三十九帖】夕霧(ゆうぎり)
山里の あはれをそふる 夕霧にたち出でん空も なき心地して
■現代語訳
山里のさびしい思いをつのらせる夕霧がたちこめて、どちらの空に 立ち出でてよいのかもわからず。おそばを去って出かける気にはなれません。(夕霧)
■鑑賞
夕霧さまは、亡き親友の柏木さまの北の方、 落葉の宮にすっかり心奪われ、 小野の山里へ足しげく通いつめておいでです。 雲居雁さまは心変わりをお恨みになります。 夕霧さまは落葉の宮さまのご寝所まで近づき、 夜を徹してかき口説くのですが、お心を許されません。 一条御息所は、この夜の一件を知ると、 夕霧さまの真意をただそうと、病をおしてお手紙をお送りになります。 しかしそのお手紙は、恋文かと勘違いされた雲居雁さまに、 取り上げられ、隠されてしまうのです。 一条御息所は、夕霧さまからお返事がないことに、 わが姫の不運を悲嘆しながらお亡くなりになってしまいます。 落葉の宮はご出家を望まれますが、父上の朱雀院さまはお許しにならず、 夕霧さまはご一計を案じ、御息所の生前にご結婚が許されていたと 世間に思わせ、一条のお邸に落葉の宮さまをお迎えになると、 女房たちも味方につけ、ついにわが妻としてしまうのでした。 お怒りの雲居雁さまは、お里にお帰りになってしまいます。