紫式部自筆の原本は消失しており、「源氏物語絵巻」の絵詩を除けば、
平安時代の写本も残っていません。
最も古いのは鎌倉時代初期の写本です。藤原定家(青表紙本の校訂者)
や源光行・親行父子(河内本の校訂者)らが、当時の様々な伝本を校訂
して、今日に伝わる源氏物語の原文テキストを確定しました。
物語五十四帖は、三部構成として見るのが、現在の一般的な考え方です。
◇第一部(「桐壺」から「藤裏葉」)
桐壺帝の第二皇子・光源氏が、禁断の愛と、追放と失脚を経て、
准太上天皇(上皇に準じる地位)にまで昇り詰める物語です。天皇に
なれなかった皇子が、さまざまな女性との遍歴を繰返しながら、
この世の頂点を極めます。貴種流離譚・求婚譚・継子譚など、旧来の
物語をベースにしながら、新しいロマンを生み出しています。
◇第二部(「若菜」から「幻」)
栄華を極めた光源氏の運命は、女三の宮の降嫁から大きく暗転します。
特に「若菜」は、「若菜を読まねば源氏を読んだことにならない」
(折口信夫)といわれ、全編中、最高の完成度を誇る傑作と高く評価
されています。
◇第三部(「匂う兵部卿」から「夢の浮橋」)
光源氏はすでに亡くなっており、子や孫の時代です。不義の子・薫の君は、
自らの出生に疑惑を抱き、仏道に憧れる厭世的な青年。
孫の匂宮は光源氏の「花心」(好色)だけを受け継いだような若宮。
この二人の公達と、宇治の姫君たちが織りなす愛の悲劇を通じて、
男とは女とは何か、孤独な人間に愛は可能なのか、魂の救済はあるのか、
千年を超えた今もなお読者に問いかけています。