【43】貴族になる方法
今回は朝廷の財政を支えた驚きの制度について。
◆身分を買う制度
モリエールの喜劇『町人貴族』には、
貴族になりたくてたまらないジュールダンという大金持ちが出てきます。
娘の恋する若者が貴族でないというので結婚を許さないのですが、
その若者が異国の王子に扮して現れるとまんまとだまされ、
結婚を許可してしまいます。
これは17世紀フランスの世相を反映したもので、
財力を得て肩書きを欲しがるようになったブルジョア(町人)と
金銭欲しさに町人と縁組をしたがる貴族の両方を風刺しています。
日本の貴族はどうだったのでしょう。
貴族たちは、現代ふうにいえば国民の納めた税金で暮らしている人たち。
しかし平安時代には税の滞納・未納が多くなり、
朝廷は貴族を養うのに苦労するようになりました。
そこで考え出されたのが栄爵(えいしゃく)というもの。
当時は五位以上が貴族とされていたので、
五位になりたい人に朝廷や寺社の建設費、修繕費、
各種行事の運営費用などを負担させ、その栄誉を讃えると称して
五位という爵位を与えたのです。
身分を売る好ましくない制度に思えますが、
朝廷の財政を支えるために鎌倉時代まで続いていたそうです。
◆官職を買う制度
ところで、光源氏が最初のアバンチュールの相手とした
空蝉という女性は、伊予介という受領(ずりょう)の妻でした。
のちに源氏の側室となる明石の君も受領の娘。
受領というのは中央から地方へ派遣される官人たちのトップで、
位階は四位か五位がふつう。
貴族としては下級に属します。
受領になると都から離れることになりますが、希望者が多く、
摂関家が実権を握っていた紫式部の時代は
権力者に近い人々ばかりが任命されていたようです。
そこにくい込むためには「志」と称する貢ぎ物を権力者に贈ったり、
「成功(じょうごう)」を行なったりしなければなりませんでした。
成功は財物や金銭を納めた者に官職を与えるというもので、
こちらは職権を売る制度です。
この制度によって国の財政がうるおったわけですが、
下級貴族がそうまでして受領になりたがったのは、
在任中に蓄財ができたから。
多くの受領は任地で正規の徴収以上の過酷な取り立てを行い、
国へは徴収分の一部だけを納めて、
莫大な富を築いていました。
志や成功を繰り返して任期を延長してもらったり、
再任してもらって受領を二期、三期務めた例もあるとか。
中には老齢になってようやく土佐守(とさのかみ)に任じられた
紀貫之(きのつらゆき)のように、
むさぼらない真面目な受領もいました。
受領の名誉のために書き添えておきます。