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【67】構成から読む源氏物語


今回は源氏物語の構成を見てみます。



◆源氏物語は三部構成


『源氏物語』に関する本を見ていると、
物語全体を三つに分けて論じていることがあります。
現在『源氏物語』は三部構成であると考えるのが一般的なためで、
多くの著者、研究者がそれに従って著述を行っています。

以下に整理してみます。

【第一部】「桐壺」から「藤裏葉」までの33巻
 内容→光源氏の前半生を描く

【第二部】「若菜上」から「幻」までの8巻
 内容→光源氏の晩年を描く

【第三部】「匂兵部卿」から「夢浮橋」までの13巻
 内容→光源氏の没後、次世代の人々を描く
  このうち「橋姫」以降を「宇治十帖(うじじゅうじょう)」と呼ぶ

各部の内容も大雑把に記しましたが、
全編をお読みになった方は、内容だけでなく雰囲気も
各部で大きく異なるのに気づかれたのでは。
作者は主題や手法も三段階に変化させています。


◆物語から小説へ


第一部は楽天的で華やか。

予言が成就したり、貴人(この場合は光源氏)が流離の後に
復活して栄華を極めるのは、古代の物語によく見られる主題。
さらに継子物語や求婚物語も挿入されていて、
作者が時代の好みに応えようとしていたことがわかります。

年中行事のあれこれが細かに描写されるのも
王朝文化の華やかさを感じさせるには十分。
読者の憧れをさそうように書かれているので、
現代の読者たちも第一部が楽しいと感じる人が多いようです。

第二部は暗さと緊張感が。

ファンタジー的な要素は消えてしまい、
「華やかな王朝恋愛絵巻」といった印象もありません。

登場人物それぞれの苦悩や哀しみがリアリティをもって描かれ、
心理小説の様相を呈しているのが第二部の特徴。
もはや予言も神も関係なく、人々はみずからの行いの結果として
人間関係を崩壊させ、孤独に沈んでいきます。

主人公光源氏が魅力的な男ではなくなっており、
源氏に裏切られて死んでいく紫の上が
第二部の真の主人公という見方も。

第三部は不安と不信の物語。

主人公の薫が作者から見捨てられているのが衝撃的。
小粒で魅力に乏しい登場人物が重ねていく愚かしい行いが
第二部以上に現実的な印象を与えています。

第三部は仏教的などともいわれますが、
出家や浄土信仰は現実逃避の手段であり、
作者が描こうとしたのは人間の弱さなのではないでしょうか。

順を追って見てくると、手法の上では
物語として始まった『源氏物語』が小説として終わっていると
考えることができそうです。
当初からの予定だったかどうかはわかりませんが、
紫式部の意識の変化が興味深いところです。